CHOURS ”かべ”創立百周年記念誌
昭和49年発行 
可部小の本 歴史を振り返る

創立百周年を迎えて (当時)学校長 清見 一士

宿場町のふるさと可部は、今も、昔を偲ばせる風情があり、静かに語りかけてくるものも残しています。

反面、長い間我々の祖先が育まれてきた美しい自然風土は、最近の経済成長の震源から押し寄せる
波に抗しきれず、人情もまた旅人の感を強くしていくようです。

本来可部小学校は創立百年に当り、古きを尋ね新しきを探る意義ある年となりました。

記念事業の一つ学校緑化と遊園山の設置は、都市化の進む中で、せめて学校を緑でまもり、子どもの
遊びをとりもどそうとする今日てきな願いであります。

記念誌「かべ」は教材性としての価値と、ふるさとの人々の心をつなぐ機縁になればという意図をもち、
誠に意義深いことであります。

明治五年学制頒布から二年遅れて、可部には「成美舎」が創設されました。

明治九年には「高宮郡公立可部学校」として、その体をなしたのであります。時の政府は国民教育の
土台としての小学校教育を重視し、財産、土地、性別の区別なく全員を対象とする画期的な施策を
実施いたしました。

当小学校でも明治十五年学令児、男子二百五人中不就学者七十九人、女子二百六人中不就学者
百十五人の記録を残す等なみなみならぬ努力の跡を見ることができます。斯くして幕藩時代の教育を
基盤とし、急速に文化国家への仲間入りを目指した努力が先任達によってなされ、伝統ある現在の
可部小学校をみたてたのであります。

心からその英断と努力に敬意を捧げたいと思います。同時に歴史の継承者である我々は現代、将来の
観点から深い自覚と責任の眼で現実を直視してみなければなりません。

平塚益徳氏は
 「謙遜ということがあまりにもない。民主主義の本質は人様のことを考えるということである」。

提案の如く再思考してみなければならぬ問題点はまことに多いのであります。

教育はまさに創造の時代に転換してきました。
「古来十年の計は樹を植うるにあり、百年の計は人を植うるにあり」今こそこの発想にかえり、可部
小学校第世紀へのスタートをきり、二十一世紀へ対応できる人間の育成を志向しなければなりません。

四十二名の職員相謀り、小学校の科学的実態調査を実施いたしました。

そして「自主性」育成の結論から、具体的児童像を
 「一人一人の考え意を出し合い、やりとおす子になろう」と描きました。

含まれる内容は、新時代へ適応するための基本的能力であると確信しています。

創立百年に当りいよいよその信を固め目的の実現に向かって、協力一致精進したいと決意しております。

最後に町民各位のご協力を感謝申し上げると共に、歴史の中で培われた可部小伝統の灯が、
新しい時代へ向かって輝きつづけるよう祈ってやみません。